『エピローグ:永遠』

時間は常に一方向に流れているものだと、誰もがそう言う。
そしてそれは不可逆なもので、戻すことはできないのだとも。
でももし。もしも時間が流れを変えて、私の時を巻き戻したら。なんてことを、いつの頃からか考えるようになっていた。

“余命は、もって半年です”
医者からの余命宣告に、私はあまり動揺しなかった。亡くなった父親も心臓病が原因だったから、遺伝なのかもしれない。手術も難しいと言われ薬による治療をすることになったが、あまり効果があるとは言えないようだった。
今日もいつものように見舞いに来てくれている妹のはるかには、私の余命のことを話していない。いらぬ心配をかけたくなくて、ずっと話さないでいたからだった。そんなはるかは私の傍でベッドを枕代わりに、かわいい寝息をたてながら静かに寝ている。
私は妹を横目に、ベッドの上で背もたれ代わりの壁に寄りかかりながら、最近話題になっていた小説を読み進めていた。157ページ。たしかこの本は全部で314ページだったはずだから、ちょうど折り返しになる。ふとそのページのとある行が目に入った。
”彼は彼女との時間を永遠にするために、呪文を唱えた”

「セエカ・リク・ヨキト…」

私は無意識に、そこに書かれていた呪文を声に出して読んでいた。二人の時間を永遠にするための呪文。そんなものあるはずがないとわかっていても、もしこれでこの時間が、はるかとの時間が永遠になればいいのにと、そう願わずにはいられなかった。
「ん…」
いまの声で起こしてしまったのか、はるかがベッドから顔を上げる。眠そうな顔で私の事を見上げてくるはるかがとても愛らしく思えるのと同時に、そんな妹の顔を見る事ができるのもそう長くはないのだと思うと、唐突に悲しさがこみ上げてきた。
「あ、起きた」
私は表情に感情が表れないようにと自然なふうを装い、読みかけの本を閉じると起きたばかりのはるかに微笑んだ。
はるかは眠そうな顔で私を見ると、どこか安心したような表情になったような気がする。そして、
「……変わってない…」
そう小さな声で呟いたように聞こえた。

あとがき